介護の現場で「家に帰りたい」と言われたとき、どうするか。
止めようとすると怒られます。かといって、そのままにはできません。転んでしまうかもしれないし、外に出てしまえば道が分からなくなります。
介護の仕事を16年やりました。1社目に5年、2社目に11年です。この記事は、その16年でやっていた対応の話です。
先に結論を書くと、僕がやっていたのは止めない方法を探すことでした。
ただし、これは正解ではありません。相手を見て、その日の状態を見てやることです。誰にでも通用する手順ではないことは、先に書いておきます。
介護で「帰りたい」と言われたら、まず話しかけずに見る
落ち着かなくなっている方に、いきなり話しかけると怒られます。これは経験のある方なら分かると思います。
だからといって、離れることもできません。転倒のリスクがある方なら目を離せませんし、他の利用者とぶつかってしまうこともあります。
そこでやっていたのが、何かあればすぐ動ける距離で、ただ見ているという時間の作り方です。
離れるのでも、介入するのでもありません。届く距離で待ちます。何もしていないように見えますが、この待っている時間が対応の中身でした。
そして、表情を見ています。話しかけてよさそうなタイミングが来るのを待つためです。
介護で帰宅願望のある方が出て行こうとしたら、一緒に歩く
玄関から出て行こうとする方がいます。
家に帰ろうとしているのですが、道は分かりません。それでも、とりあえず歩きます。
僕は止めませんでした。一緒に歩きます。
しばらく歩くと、疲れてきます。そこを見ています。
「歩くの疲れましたね。お茶でも飲みませんか」
このくらいの言い方で、戻れることがあります。帰りたい気持ちを否定していないので、こちらと対立しません。
介護の帰宅願望には、外側の条件を持ち出す
天気が使えることもあります。
雨が強く降っていたら、「もう少し弱まってからのほうがよくないですか」。暑い日なら、「もう少し気温が落ちてからにしましょう。暑すぎて歩いていられない」。
ポイントは、止める理由を自分の側に置かないことです。
「危ないから駄目です」と言えば、止めているのは僕になります。そうすると、こちらが敵になります。
雨だから、暑いから、と外側の条件を持ち出せば、止めているのは僕ではありません。しかも「歩いていられない」と自分を主語にすると、一緒に困っている人になります。
介護では、自分が音を上げるという手もある
もうひとつ、よく使っていた形があります。
「僕もついて行っていいですか。家、見てみたいです」
そう言って、一緒に歩きます。帰りたいという気持ちを否定するどころか、興味を持って乗る形です。
そして途中で、こちらが音を上げます。
「すみません、もう足が痛くて歩けないです」
それで戻ってくることがあります。弱い側に回っているのは僕のほうです。止められた形にならないので、相手のなかに納得が残ります。
介護の帰宅願望への対応に共通していること
ここまで書いた対応に、共通していることがひとつあります。
止める役をやらないということです。
帰りたいという気持ちそのものは、一度も否定していません。否定すると、そこから対立が始まります。対立すると、その後しばらく不穏な状態が続きます。結局、こちらが大変になります。
だから、理由を外側に置くか、自分の側に置くかのどちらかにしていました。雨だから。暑いから。疲れたから。僕の足が痛いから。
相手が悪いことにしない。これだけです。
それでも介護の帰宅願望は、何度も繰り返す
正直に書きます。
戻ってきても、また出て行こうとします。何回も繰り返します。解決はしません。
これは対応が下手だからではないと思っています。覚えていられないからです。さっき戻ってきたことも、覚えていません。
それでも、毎回やります。一回ごとに、そのときを乗り切るだけです。
「これをやれば落ち着きます」という話ではありません。落ち着かないことを前提にして、そのうえで毎回どうするか、という話です。
介護のこうした対応は、複数のスタッフがいて初めてできる
ここが一番大事なところです。
一緒に外を歩いている間、僕はフロアにいません。この対応は、他に人がいるから成立しています。
夜勤でひとりのときには、同じことはできません。外に出るわけにはいかないし、その間フロアを空けることもできません。
では、夜はどうしていたか。
「お兄さん、私もう家に帰りたい」と言われたら、僕はこう返していました。
「僕だって帰りたいですよ」
「でも朝まで帰れないんです。ひとりになったら寂しいでしょう。朝まで付き合ってくださいよ」
そう言うと、苦笑いされて「仕方ないねえ」と言ってもらえることがありました。
これは、普段からの関係がないと使えません。急に言っても通じません。だから僕は、日頃から冗談を言い合える関係を作ることを目標にしていました。和やかにしたかったからではなく、こういう場面で使う手が増えるからです。
まとめ:介護の帰宅願望は、止めずにどうするかを考える
帰りたいと言う方を、止めずにどうするか。僕がやっていたのは、この4つでした。
届く距離で待つ。一緒に歩いて、疲れるタイミングを見る。天気などの外側の条件を持ち出す。自分が音を上げる。
共通しているのは、止める役をやらないことです。そして、これらは他にスタッフがいるからできることでもあります。
繰り返しますが、これは正解ではありません。相手によって、その日によって変わります。ただ、16年やってきて、僕はこのやり方が一番こじれなかったと思っています。
この手が使えるかどうかも、職場で決まります
繰り返しになりますが、ここに書いた対応は、他にスタッフがいるから成立しています。人が足りていない現場では、そもそも選択肢がありません。
自分の職場の人員配置が普通なのかどうかは、中にいると分からないものです。僕は確かめないまま移って、失敗した側です。
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