介護の現場で、人に教える立場になったときに決めていたことがあります。
ひとつだけです。
何回でも聞いていい。そのままにされるほうが、よっぽど困る。
これを最初に言っておく。あとは、相手によってやり方を変えるだけでした。
介護の仕事を16年やりました。1社目に5年、2社目に11年です。後半は現場の指導と、採用の面接を担当していました。この記事は、その中でやっていたことの話です。
自分がされて嫌だった教わり方があった
先に、こうなった理由を書きます。
僕が新卒で介護の現場に入ったばかりの頃、こういう教わり方をしたことがあります。
「まずやってみて」
言われたのは、それだけでした。何も分からないので、手探りでやります。すると、ため息をつかれる。そして、僕がやったものを無言で全部やり直される。
何がまずかったのかは、教えてもらえません。だから次も同じことになります。
正直、心が折れそうでした。
だから僕は、絶対にこのやり方はしないと決めました。今書くことは、全部その裏返しです。
新卒には、まず見学してもらう
新卒で入ってきた人には、最初に業務をさせません。
理由は単純で、何が分からないかも分からない状態だからです。その状態で手を動かしても、何を覚えればいいのかが本人に見えません。
だから、まず僕の動きを見てもらいます。
そのとき大事にしていたのは、動作を見せるだけで終わらせないことです。これはこういう理由でこうしている、とその都度説明を添える。
手順だけ覚えても、場面が変われば応用できません。理由が分かっていれば、初めての場面でも自分で考えられます。
そのうえで、分からないことはどんどん聞いてもらう。これが新卒に対する形でした。
経験者には、利用者の情報から入る
経験のある人が入ってきたときは、入り口を変えます。
介助の技術は、すでに持っています。そこを一から教える必要はありません。
足りないのは、この現場の利用者がどういう状態なのかという情報だけです。
だから、最初に利用者の情報を見てもらいます。どんな方で、どこに介助が要って、何に気をつけるのか。それが分かれば、できることはかなり多くなります。
同じ「新人」でも、必要なものがまったく違う。ここを分けずに同じ研修を流すと、どちらにも合わないものになります。
1日の流れは、早番・日勤・遅番を3日ずつ
ある程度動けるようになったら、勤務帯ごとに慣れてもらいます。
僕がやっていたのは、早番を3日、日勤を3日、遅番を3日、という組み方でした。指導できるスタッフと一緒に入ってもらいます。
介護は勤務帯によって業務の中身がまったく違います。同じ職場でも、朝と夕方では動き方が別物です。1回やっただけでは身につきません。
日数はあくまで目安です。3日で足りる人もいれば、足りない人もいます。
独り立ちの時期は、本人に聞いて決めた
ここが、いちばん大事にしていた部分かもしれません。
ひと通り回ると、だいたい1か月かかるかどうか、というところに来ます。ただ、期間で区切ることはしませんでした。
本人に聞きます。
「ひとりでやれそうですか。それとも、もう少し一緒に入ったほうがいいですか」
やれそうだと言われたら独り立ちしてもらうし、まだ不安だと言われたら期間を延ばします。
理由は、できない状態で任せても、誰も得をしないからです。本人も困るし、現場も困るし、利用者にも影響が出ます。急がせて事故になるより、あと1週間待つほうが安いです。
人が足りない現場ほど、早く独り立ちしてほしくなります。その気持ちは分かります。ただ、そこで急がせたぶんは、あとで返ってきます。
ひとつだけ補足すると、この聞き方が万能ではない場面もあります。自己評価が実際とずれている人もいるので、本人の言葉だけで決めきれないことは確かにありました。
夜勤の前は、あえて別のスタッフと組ませた
日中の業務ができるようになったら、次は夜勤です。
夜勤も、いきなりひとりにはしません。指導できるスタッフと複数回入ってもらいます。
ここで、ひとつ決めていたことがあります。
自分以外のスタッフとも、複数回組ませる。
理由は、自分の指導に抜けがある前提で考えていたからです。ひとりが教えると、その人の抜けがそのまま新人の抜けになります。別の人と組めば、そこが埋まる。
夜勤はひとりです。抜けがあると、困るのは本人です。フロアに他のスタッフはいません。
だから、夜勤に入る前だけは、わざと教える人を変えていました。
パソコンを教えるときは、動画を撮ってもらった
業務とは別に、パソコンの操作を教えることもありました。
苦手だという人は、けっこういます。「絶対にできない」と本人が言っていたスタッフもいました。
そういうとき、僕は操作しているところを動画で撮ってもらっていました。
理由は単純です。その場で説明を聞いても、手順が多いと後で再現できません。もう一度聞けばいいのですが、聞くにも相手の都合があります。
動画があれば、自分で見返せます。聞かなくても済むようにしておくほうが、結局は早い。
「何回でも聞いていい」と言っておくのと、方向は同じです。教わる側の記憶と勇気に頼らない、ということだと思っています。
人に教えると、自分の理解が言語化される
教える側でいて気づいたことがあります。
人に教えるには、自分の中で言語化できていないと無理だということです。
なんとなくできていることは、教えられません。なぜそうするのかを一度言葉にしないと、相手に渡せない。
教え方が分かりやすいと言われることがありましたが、たぶんそれは、教えるために自分が整理していたからだと思います。
教えるのは、時間を取られる作業です。ただ、自分の理解も一緒に深くなるので、損ばかりではありません。
まとめ:決めていたのは「何回でも聞いていい」だけ
整理すると、やっていたのはこれだけです。
新卒には、まず見学してもらって、理由を添えて説明する。経験者には、利用者の情報から入る。勤務帯ごとに複数日入ってもらう。独り立ちの時期は本人に聞く。夜勤の前は別のスタッフとも組ませる。パソコンは動画で残す。
全部、自分がされて嫌だったことの逆をやっているだけです。
「まずやってみて」と言われて、ため息をつかれて、無言で直される。あれが本当にきつかったので、同じことはしませんでした。
ちなみに、外国から来たスタッフに対しても、基本は同じやり方でした。違ったのは、かかった時間だけです。
ただし、これができるかどうかも職場によります
ここまで書いたことは、指導に時間をかけられる職場だから成立していた部分があります。すぐに頭数として数えたい現場では、1か月かけて独り立ちを待つことも、動画を撮る時間を取ることも難しいと思います。
その余裕があるかどうかは、外からは見えません。僕は条件を確かめないまま職場を変えて、失敗した側です。
介護の退職金は少ない?5年で70万、11年で50万だった僕の実例
関連記事
介護で有給を最低半分、20日連続の休みも作りました|シフトを組む側にいた話

コメント