介護を辞めると伝えたのは、退職の半年前でした。
それでも、補充の人は来ませんでした。僕が辞めた後もです。辞めてから2年ほど経ちますが、元同僚に聞く限り、今も来ていないそうです。
介護の仕事を16年やりました。1社目に5年、2社目に11年です。その後、39歳で異業種に移りました。
この記事は、辞めると言ってから辞めるまでに何が起きたかという話です。そして、辞められない理由が「自分が抜けたら現場が回らない」なのだとしたら、一度読んでみてほしい話でもあります。
介護を辞めることを半年前に伝えた理由
普通は1ヶ月前、早くても2、3ヶ月前だと思います。半年は早すぎます。
それでも半年前に伝えたのは、人員の補充にどれだけ時間がかかるかを知っていたからです。
僕は採用の面接をする側にいました。求人を出して、応募が来ないという状態を、何年も見ています。年に1人採れるかどうか、という時期もありました。
だから、自分が抜けると分かった時点で伝えました。半年あれば、間に合うと思ったからです。
結果として、間に合いませんでした。というより、間に合わなかったのではなく、動かなかったという表現のほうが正確だと思います。
介護の直属の上司は、引き止めてこなかった
辞めると伝えたとき、直属の上司は引き止めませんでした。
これは冷たくされたという話ではありません。むしろ逆です。
その人は、僕が16年の中で一番信頼していた同期でもありました。現場が熱くなって決めたことを一歩引いて軌道修正したり、残業代の申請の扱いを明確にして上に通したりしてくれた人です。機嫌で判断が変わらず、主観で物事を決めない。あの人がいなかったら、職場の改善は何年も遅れていたと思います。
その人とは、普段からいろいろな話をしていました。誰かが辞めるたびに出ていたのが、この言葉です。
「この給料じゃ、引き止められないよね」
実際その通りでした。だから僕が辞めると言ったとき、その人が引き止めないことは、言う前から分かっていました。
引き止めるには、何か出せるものが要ります。給料でも、役職でも、条件でもいい。現場を見ている人ほど、出せるものが自分の手元に何もないことを知っています。
介護の退職を引き止めに来たのは、現場を見ていない人だった
引き止めに来たのは、本部の人でした。
言われたのは、こういう内容です。あなたの能力なら昇進もさせられるから、残ってくれないか。
ありがたい話ではあります。ただ、僕は昇進したいと思っていませんでした。
理由は単純で、管理職になると夜勤から外れるからです。僕の夜勤手当は月4万円前後ありました。一方、管理職手当は月9,000円と聞いていました。責任は増えて、手取りは下がる計算になります。現場にいれば誰でも知っていることです。
それと、もうひとつ言いました。役職も仕事量も自分のほうが上なのに、給料は年上のスタッフのほうが高い。その状態のままでは納得できない、と。
返ってきたのは、この一言でした。
「お金の話をされると、こっちからはもうなんとも言えないなあ」
それで終わりです。引き止めの材料が、最初から無かったということだと思います。
介護を辞める1ヶ月前に言われた、たった一言
それから数ヶ月が過ぎて、退職まで残り1ヶ月ほどになった頃です。
直属の上司から、こう言われました。
「辞めるの、やめない?」
それだけです。理由も、条件も、代案もありません。
正直、居た堪れませんでした。その人は、引き止める材料が無いことを誰よりも知っています。半年前に伝えたときには、何も言わなかった人です。それでも、最後にそれだけ言ってきた。
ただ、そのときにはもう次が決まっていたので、断りました。
介護の現場は、人が減っても「回っているように見える」
ここからが、この記事で一番書きたい部分です。
なぜ半年あっても補充が来なかったのか。辞めて2年経っても来ないのか。
理由のひとつは、人が減っても、外から見ると回っているように見えるからだと思っています。
介護の業務には、削れないものと削られるものがある
人数が足りない日、現場は優先順位をつけて動きます。基準はひとつです。その日のうちに命に関わるかどうか。
削れないのは、食事の介助、服薬、排泄の介助、就寝の介助。ここを抜くと、その日のうちに影響が出ます。
逆に言えば、それ以外は削られやすいということです。
最初に削られるのは入浴だと思っています
入浴の介助は、僕がいたところでは基本的にマンツーマンでした。
着替えを準備して、トイレに誘導して、脱衣室で服を脱いで、浴室で体を洗って、湯船に入って、出たら保湿剤を塗ったりして、服を着て、髪を乾かす。ひとりぶんで、これだけの工程があります。
人員に余裕がないと、成立しません。それに、入浴の介助に人が取られている間は、フロアを見る人が減ります。死角が増えて、事故のリスクが上がります。
でも、入浴を減らしても、その日に何かが起きるわけではありません。極端な話、入らなくてもすぐには死なないからです。
だから真っ先に削られます。レクリエーションも同じです。
削られた側は、数字に出ない
ここが問題だと思っています。
食事も服薬も排泄も回っている。事故も起きていない。書類の上では、何も問題がありません。
削られたのは、入浴の回数とレクの時間です。それは、どこにも数字として出てきません。
つまり「回っている」という状態は、削れないものだけが回っている状態のことです。それでも、外から見れば回っています。
介護の現場が改善しても、条件は戻らなかった
同じことは、人が抜けたときだけでなく、逆の場面でも起きました。
配置が減らされた時期に、同期と一緒に業務を見直したことがあります。1日のタイムテーブルを細かく洗い出して、残業をほぼ消して、休憩も取れるようにしました。
結果、何が起きたか。
「その人数で回せるんでしょ」
配置は戻りませんでした。改善したことが、条件を固定する理由に使われた形です。
改善しても戻らない。人が抜けても補充されない。回っているように見える限り、現場が何をしても条件は変わらないということだと思います。
介護を「自分が辞めたら回らない」で辞められない人へ
介護を辞めたいのに辞められない理由として、これはかなり多いと思います。自分が抜けたら、残る人が大変になる。利用者に迷惑がかかる。
その気持ちは分かります。僕もそう思っていた時期があります。
ただ、僕の場合は半年前に伝えました。会社には半年の猶予がありました。それでも動かなかった。
これは、僕が抜けたことによって起きた問題ではありません。半年あって補充しなかったのは、会社の判断です。
そして辞めた後も、現場はどうにか回っています。回っているように見える、という意味も含めてです。
ひとつだけ言えるのは、あなたが抜けた穴を埋めるかどうかを決めるのは、あなたではないということです。決める人が決めない状態を、あなたが自分の責任として抱え続ける必要はないと思います。
まとめ:介護を辞めると伝えても、会社は動かないことがある
半年前に伝えました。直属の上司は引き止めませんでした。本部は昇進を持ち出しましたが、お金の話をしたら終わりました。残り1ヶ月で「辞めるの、やめない?」とだけ言われました。
そして補充は、今も来ていません。
これを読んで、どう受け取るかは人それぞれだと思います。僕はここに、誰が悪いという話を書くつもりはありません。起きたことを並べただけです。
ただ、辞められない理由が「自分が抜けたら回らないから」なのだとしたら、それは一度、疑ってみていいと思います。
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